2018年の読書メーター

2018年の読書メーター
読んだ本の数:80
読んだページ数:24168
ナイス数:436

へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)感想
日経新聞の連載をまとめたもので、語り口調のため読みやすい。波瀾万丈すぎて唖然とするエピソードの数々は、さぞかし日経の紙面で浮いていたと思われる。読み終わった後、国立近代美術館で開催されていた熊谷守一展に行けなかったことを激しく後悔した一冊。
読了日:12月22日 著者:熊谷 守一
暇と退屈の倫理学暇と退屈の倫理学感想
暇と退屈というテーマを突き詰めていった結果、到達した着地点はかなり想定外なものだったが、読み終えた直後は時空を超えた旅行を経てきたような感覚になった。難解な理論を具体例と共に丹念に検証しているので、ギブアップせずに無事ゴールできた。
読了日:12月21日 著者:國分 功一郎
別のしかたで:ツイッター哲学別のしかたで:ツイッター哲学感想
140字で世界を切り取る手腕は鮮やかすぎて、芸術の域に達していると言っても過言ではないと思う。言葉に対する神経の使い方・執着が尋常ではない印象。理解が難しいものも多いが、何気ない思考のダダ漏れ感がとても楽しめるのでオススメ。
読了日:12月17日 著者:千葉 雅也
リタ・ヘイワースの背信リタ・ヘイワースの背信感想
それぞれの章が丸々登場人物の独白(改行なし)で占められており、とにかく読みにくい上に人物相関も分かりづらい。終盤で漸く小説らしい箇所が現れたものの結局謎に包まれたまま終了。プイグのデビュー作を読んでみたいというマニア以外にはオススメできない一冊。
読了日:12月11日 著者:マヌエル プイグ
継母礼讃 (中公文庫)継母礼讃 (中公文庫)感想
単なる官能小説かと思いきや、意外な展開が待っていた。描写する場面とそうでない場面の線引きが鮮やかで、敢えてすべてを描かず、読者に想像させる手腕が見事だと思った。サラッと書かれたようで、実は侮れない作品。
読了日:12月01日 著者:マリオ・バルガス=リョサ
ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)感想
バルガスリョサ、オクタビオパス、フエンテスなどの作品を含むコンピレーションアルバム的な作品集。中でもバルガスリョサの「子犬たち」の笑うに笑えなさが一番面白かったが、「ち○こ」というワードがあれほど頻出する短篇小説は初めて読んだ。
読了日:11月29日 著者:ホセ・エミリオ パチェーコ,カルロス フエンテス,オクタビオ パス,ミゲル・アンヘル アストゥリアス,マリオ バルガス=リョサ
青白い炎 (岩波文庫)青白い炎 (岩波文庫)感想
約150頁の詩(左頁に英文、右頁に対訳)と約370頁の註釈というパンチの効いた目次から始まる、厚さにして二センチあまりの文庫本。英語の詩を読むのは初めてだったが訳分からないなりに語感の美しさが伝わった気がする。富士川義之氏の対訳は、あまり意訳せずに原文の雰囲気を尊重していた印象。破天荒な構成と分厚さに怖じ気づくことなく、覚悟を決めて思いっきり飛び込んでしまえば意外と楽しめると思う。
読了日:11月24日 著者:ナボコフ
松浦弥太郎の「ハロー、ボンジュール、ニーハオ」松浦弥太郎の「ハロー、ボンジュール、ニーハオ」感想
暮らしの手帖編集長時代の著書。アメリカ、フランス、中国の国民性や考え方の紹介が中心で、終始ポジティブかつアクティブなパワーに溢れているので、そういうタイプではない人にはしんどいと思う。米仏中での経験を現在の仕事にどう反映させているか、についてもっとページを割いて欲しかったが、それは他の著書をご覧ください、ということだろうか。
読了日:11月15日 著者:松浦弥太郎
緑の家(上) (岩波文庫)緑の家(上) (岩波文庫)感想
とりあえず上巻を読み終えたが、物語がこの先どう展開していくのか、未だに予測できない。このままボンヤリ終わってしまったらどうしよう、という一抹の不安を抱きつつ下巻に進む。
読了日:11月10日 著者:M.バルガス=リョサ
秘密の武器 (岩波文庫)秘密の武器 (岩波文庫)感想
コルタサル「秘密の武器(岩波文庫)」読了。短篇5篇中2篇は他の短篇集で既読。人間の情念と日常を逸脱した超現実感のミックス具合がコルタサルの魅力だと思うが、本作収録の短篇では人間の情念、とりわけ不在者に対する情念の描写が印象的。「女中勤め」はあまりコルタサルっぽくない短篇で意外だった。
読了日:11月06日 著者:コルタサル
蜘蛛女のキス (集英社文庫)蜘蛛女のキス (集英社文庫)感想
読んでいて人と人が愛を育むことの尊さがグサグサ刺さったが、若干特殊な環境下であることは否めない。プイグ作品はブエノスアイレス事件、赤い唇を読んだが、本作が一番良かった。プイグ特有の文章構成が物語に見事にハマっていた気がする。どんな人物をモリーナに当て嵌めて読み進めるかが重要なポイントだと思う。
読了日:11月05日 著者:マヌエル・プイグ
赤い唇 (集英社文庫)赤い唇 (集英社文庫)感想
最初から最後までとにかくドロドロしている。複数の男女の思惑が交錯する「アルゼンチン版昼ドラ」的な内容だが、身分、都会と田舎、不治の病、信仰などの要素に加えて、プイグが得意とする変則的な文章構成が物語に奥行を持たせている。マルケスの「予告された殺人の記録」を読んだときの救いの無さを思い出した。
読了日:10月30日 著者:プイグ
ブエノスアイレス事件 (白水Uブックス (63))ブエノスアイレス事件 (白水Uブックス (63))感想
小説っぽくない独特な構成とドロドロした性表現が特徴的だが、その先にあるのは愛や希望ではなく、病的で歪んだ欲望がアルゼンチンを舞台としたキャンバスにこれでもかとばかりに叩きつけられている印象。冗長な部分も殆どなく、なかなか面白かったが、ベストセラーになるほど万人受けするとはとても思えない。
読了日:10月25日 著者:マヌエル・プイグ
会話もメールも 英語は3語で伝わります会話もメールも 英語は3語で伝わります感想
「3語」というのは実際に単語が三つしかない訳ではなく、文の中の要素が三つという意味なので若干誇大広告気味な感じは否めないが、全体を通して趣旨はまともだし、英語をコミュニケーションの道具として使いこなしたいのであれば、TOEICの勉強をするより、この本の内容を徹底的にマスターした方が良いのではないか。斬新な切り口の良書だと思う。
読了日:10月23日 著者:中山 裕木子
フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)感想
最近個人的にラテンアメリカ文学がアツいので初フエンテスに挑んでみたところ、ボルヘス直系の不気味さ、生と死が地続きなフアンルルフォ、ガルシア=マルケス感があった。ただコルタサルっぽい主観性はあまり感じられず、第三者的な客観的視点に徹しているように思えた。
読了日:10月18日 著者:カルロス フエンテス
奪われた家/天国の扉 (光文社古典新訳文庫)奪われた家/天国の扉 (光文社古典新訳文庫)感想
『訳分からないけどクセになる』コルタサルの魅力が詰まっているが「キルケ」はトラウマになりかねないインパクト。マンクスピアとは何なのか気になってしまい、ついついググってしまった。コルタサルの未訳の作品はまだまだあると思うので、寺尾隆吉さんにはこれからも是非頑張ってもらいたい。
読了日:10月14日 著者:フリオ コルタサル
八面体 (フィクションのエル・ドラード)八面体 (フィクションのエル・ドラード)感想
短編は長編と違って、その作品を読んだことでしか感じられない或る特別な感情を味わうことのできる表現形式だと思うが、そういった意味においてコルタサルは短編職人だな、と感じた。読者を作品ごとに様々な感情の迷路に容赦なく突き落としてくれる迷作。
読了日:10月12日 著者:フリオ コルタサル
十二の遍歴の物語 (新潮・現代世界の文学)十二の遍歴の物語 (新潮・現代世界の文学)感想
ヨーロッパを舞台にした短篇が多いせいか、幻想的リアリズム感は控えめ(ゼロではない)で、日常の延長を題材にしたライトな作品が多い印象。文体はいつものマルケス節だが、他の作品に比べて気軽に楽しめるものが多かったように思う。
読了日:10月09日 著者:G.ガルシア マルケス
悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)感想
世にも奇妙な物語テイストの作品が多いが、その中でも比較的サイズ長めの「追い求める男」がとにかくヤバかった。月と六ペンスを彷彿とさせる、ジャズミュージシャンの生きざまを描く傑作をラテンアメリカの作家が書いていたとは全く知らなかった。
読了日:10月05日 著者:コルタサル
遊戯の終わり (岩波文庫)遊戯の終わり (岩波文庫)感想
「結局謎が明かされないミステリ」的な短篇の数々は割とサクッと読めるが、再読すると味わいが深まるスルメ感あり。全てを語らず、余白部分を読者の想像に委ねているような印象。「牡牛」や「昼食のあと」「遊戯の終わり」といった作品が好みだった。
読了日:10月02日 著者:コルタサル
誘拐の知らせ (ちくま文庫)誘拐の知らせ (ちくま文庫)感想
実際に起こった事件を元にしたノンフィクションの物語が、相変わらず淡々としたマルケス節で綴られている。安易な勧善懲悪のパターンに陥ることなく、さまざまな立場の人々の思惑が生々しいリアリティで描かれており、ジャンルは異なるものの「百年の孤独」に勝るとも劣らないクオリティだと思う。コロンビアという国に興味を持つきっかけとなったが、いかんせん登場人物が多すぎるので、序盤から人物メモを取っておくと読みやすくなる。
読了日:09月27日 著者:G・ガルシア=マルケス
屍者の帝国 (河出文庫)屍者の帝国 (河出文庫)感想
虐殺器官やハーモニーの世界観に「歴史物」という要素が加わりストーリーとしては楽しめるが、内容はやはり難解。伊藤氏お得意の「ポップなグロテスク」感は控え目だが、円城氏が得意とするシニカルなユーモアが全編に渡って効いている。意識についての大胆すぎる仮説がなかなか衝撃的だった。
読了日:09月22日 著者:伊藤 計劃,円城 塔
翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった (ポプラ文庫)翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった (ポプラ文庫)感想
自分がモームにハマるきっかけとなった「月と六ペンス」を翻訳されていて、どんな人なんだろうと思い読んでみた。翻訳する際の苦労話や、どんな作品に注目するか、などについて惜しげもなくベテランのノウハウを開示している。楽しみながら翻訳家の世界について知る事のできる作品。若干村上春樹を目の敵にしている感がある。
読了日:09月19日 著者:金原 瑞人
ぼくはスピーチをするために来たのではありませんぼくはスピーチをするために来たのではありません感想
マルケスが生前行った数々の講演が収録されており、題材は多岐に渡るので創作についての話はあまり多くないが、ジャーナリズムについて述べているものはとても興味深かった。これを言ったら身も蓋もないが、やはりマルケスは小説の方が面白いので、わざわざ買って読むほどではない気がする。
読了日:09月16日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)感想
今年読んだ中では現時点で最高の作品。会話文が少なく淡々とした文章で綴られる物語は、清濁併せ呑む壮大なスケールで進んでいくかと思いきや、時おり気の抜けたユーモアが顔を覗かせたり、妻から夫への愚痴が句点無しの2ページ強に渡る一文で表されたりする。とにかく登場人物の名前が厄介なことこの上ないので、終盤は半ばヤケクソ気味な状態で読み終えたが、小説に対する固定観念をものの見事に打ち砕いてくれる、稀に見る傑作だと思う。
読了日:09月15日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
幸福な無名時代 (ちくま文庫)幸福な無名時代 (ちくま文庫)感想
短編集と勘違いして購入したところ、記者時代のルポルタージュを集めたものと判明。でも読んでみると語り口がマルケスの小説と殆ど変わりなかった。ノンフィクションなので比較的クセがなく読みやすかったので、マルケス一冊目に適していると思う。
読了日:09月07日 著者:G. ガルシア=マルケス
Frida KahloFrida Kahlo感想
テキスト量は少ないが伝記と年代ごとの作品が紐付けられており、フリーダの代表作が一通り追えるようになっている。英語もそれほど難しくないので、フリーダファンならコレクターアイテム的に持っておいて損は無いと思う。大きい作品が少なく、小さな絵が多かったフリーダらしい、可愛らしい本のサイズも良い。
読了日:09月05日 著者:Christopher Wynne
伝奇集 (岩波文庫)伝奇集 (岩波文庫)感想
夢のように現実離れした感触の作品は、どれも最低二回は通読しないと頭に入ってこない。物語にありがちな感傷性を極力排した「何かを超越した」世界だからだろうか。「円環」や「シンメトリー」といったボルヘスが大好きなモチーフが頻繁に用いられており、ラテンアメリカの土着性と、著者の博識っぷりとの唯一無二のハイブリッド感がボルヘスの魅力だと思う。
読了日:09月04日 著者:J.L. ボルヘス
かみそりの刃〈下〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)かみそりの刃〈下〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)感想
ストーリーよりも個性豊かな登場人物の描写に重きが置かれている印象。戦争、宗教、インド神秘主義などの要素がこれでもかとばかりに詰め込まれており、スケールの割に全体のまとまりに欠ける感が否めなかった。ただ主人公や周りの人物の描写についてはとにかく鬼気迫るほどのリアリティで、さすがモームと言わざるを得ない。
読了日:08月31日 著者:サマセット モーム
かみそりの刃〈上〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)かみそりの刃〈上〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)感想
女性の人物描写に定評のあるモームだが、本作では男性主人公の描き方が光っており、過剰になってしまいがちな人物造形が絶妙なバランスを保っている印象。小説らしい小説は久しぶりなので、とても楽しんで読んでいる。下巻は果たしてどうなるのか。
読了日:08月25日 著者:サマセット モーム
鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)感想
想定外の落語調訳文に初めは面喰らったが、ゴーゴリに対する深い理解や愛が無いとここまで大胆な翻訳は出来ないと思うし、どの作品も単純に楽しく読めたので結果オーライだと思う。落語と相通じるものがあるということは、ロシアとか日本とか国境を越えた面白さが伝わった事になるし、外国文学に対するハードルも下がると思うので、今後もこういった試みは個人的にはウェルカムである。
読了日:08月13日 著者:ゴーゴリ
魯迅文集〈1〉 (ちくま文庫)魯迅文集〈1〉 (ちくま文庫)感想
「吶喊」と「彷徨」魯迅の小説集×2が1冊にまとめられている。吶喊に比べて彷徨の作品の方がユーモアを含んだ作品(ex高先生)もあれば、とことんヘビーな作品(傷逝)もあるので間口が広く、多彩なった。都市生活者を題材にしたものが若干増えたかも。ただどんな作品にせよ魯迅は徹底して突き放したスタンスで描くので、読者の感情が多少揺れたとしても「そんなことより、お前今の社会で本当にいいのか」と怒られそうな気がする。
読了日:08月07日 著者:魯迅
阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)感想
「吶喊」「彷徨」「朝花夕拾」からチョイスされたベストアルバム的な1冊。「吶喊」は訳者は異なるが既に岩波文庫版で読んでいたので「彷徨」からの4篇と藤野先生を読んだ。魯迅の短篇はだいたい読んでてしんどくなるのだが、中でも「孤独者」のボディブローのような感触が一番キツかった。読んでいて感じるしんどさ、キツさこそが魯迅を理解する手がかりになると思うが、今のところはただしんどいだけである。「藤野先生」は先生のどの性質が魯迅の心に引っ掛かったのかよく分からず。
読了日:08月06日 著者:魯迅
魯迅 (講談社文芸文庫)魯迅 (講談社文芸文庫)感想
「吶喊」「野草」を経て読んでみた結果、主題の魯迅よりも竹内氏の無骨な人間臭さに魅了されてしまった。文学者としての魯迅のスタンスは一筋縄ではいかない捻くれ具合だが、竹内氏は「日本とアジア」同様、寄り道しまくった挙げ句当たって砕ける感じの展開で全く飽きない。とにかく魯迅の書いてる事を真に受けてはいけない、という事だけは分かった。
読了日:08月03日 著者:竹内 好
野草 (岩波文庫 赤 25-1)野草 (岩波文庫 赤 25-1)感想
初期の短篇の世界観(基本的に暗い)を更に凝縮したような掌編の数々が収められている。あっさり描かれているけど異様に格調の高いスケッチのような印象。例えてみると、エモいボルヘスのような感じ。ボルヘスの方が圧倒的に年下だが。
読了日:07月29日 著者:魯迅
阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)感想
岩波文庫竹内好氏による訳、訳註がとても細かく記されており、非常に親切。「阿Q正伝」はロクでもない主人公の物語で当時の中国では珍しくない人物像と思われる。「ふわりふわり」してるうちに行き着く結末からは、なかなか笑えない社会の縮図が垣間見える。
読了日:07月27日 著者:魯 迅
日本とアジア (ちくま学芸文庫)日本とアジア (ちくま学芸文庫)感想
「アジア」といっても、この本では主に中国を示しており、日本と中国の近代化についての評論がテーマごとに収められている。序盤は読み進むのに苦労したが、講演を元にした最後の「方法としてのアジア」はちょっと感動した。これを最初に読めばもっと理解しやすかったと思う。整理された理論というよりは、むしろ生々しい思考の形跡が叩きつけられているような文章が多く、作品中で紹介されている文献を読んでみたくなること請け合い。専門分野に留まらないスタンスが印象に残った。
読了日:07月22日 著者:竹内 好
The Indifference Engine (ハヤカワ文庫JA)The Indifference Engine (ハヤカワ文庫JA)感想
虐殺器官とハーモニーという二大傑作を読んだ後なので正直あまり期待してなかったが、短編のクオリティの高さに驚かされた。特に表題作と「From the Nothing,With Love」がヤバかった。著者の作品をWeb技術との関連性を抜きにして語る事は難しいが、その辺りの実感やイメージが伝わる人はすごく楽しめると思う。逆にそういった技術に拒否反応を示してしまう人には、氏の作品の凄さは届きにくい気がする。ただ技術の発展も日進月歩なので、クラウドブロックチェーンなどを取り入れた伊藤作品を読みたかった。
読了日:07月13日 著者:伊藤 計劃
砂の本 (集英社文庫)砂の本 (集英社文庫)感想
集英社文庫だと「汚辱の世界史」も収録されているのでお得。ボルヘスの幻想譚は裏世界の大人のおとぎ話みたいなイメージ。現実にはあり得ないような話も、実はそういう世界が地続きに存在するのではと思わせてくれるのは盲目の故か。汚辱の世界史は思ったほど汚辱ではなかった。ボルヘスは「エル・アレフ」読んだので、あとは「伝奇集」を読んでおきたい。
読了日:07月05日 著者:ホルヘ・ルイス ボルヘス
ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)感想
かなり想定外の内容。宇宙との相互理解・人間の傲慢さに焦点が当たっているが、ある意味ラブストーリーとも解釈できる。ブッ飛んだ設定に見えて、こんな惑星が実際に無いとも限らない。ただ、もし自分がソラリスに行ったらと想像するとかなりイヤな予想しか思い浮かばない。
読了日:06月30日 著者:スタニスワフ・レム
族長の秋 ラテンアメリカの文学 (集英社文庫 カ)族長の秋 ラテンアメリカの文学 (集英社文庫 カ)感想
読み始めてから、なかなか改行されない事に気づいたが、どうやら一章に一回しか改行されないことが判明してまず衝撃を受けた。とにかく人はバタバタ死ぬし、そしてまた皆ロクな死に方じゃないし、読んでる方まで生きた心地がしない「負」の密度が濃すぎる文章の中に浮かび上がってくる大統領の執着が印象に残った。あまりオススメは出来ないが、ちょっとしたトラウマを味わいたい方は読んで欲しい。あと「臭い」のキツさという点では史上トップクラスの小説だと思う。
読了日:06月24日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
バナナ剥きには最適の日々 (ハヤカワ文庫JA)バナナ剥きには最適の日々 (ハヤカワ文庫JA)感想
円城作品は3冊目だが、読み方に一工夫要るというか良い意味で諦めが必要だと思う。比較的ポップな部類に入る短篇が収録されており、意外と恋愛モノが多かった気がするが、気のせいかもしれない。「祖母の記録」「捧ぐ緑」「コルサルタル・パス」が好み。『宝誌和尚立像』をググってみたらなるほどと思った。
読了日:06月17日 著者:円城 塔
モーム短篇選〈下〉 (岩波文庫)モーム短篇選〈下〉 (岩波文庫)感想
特筆すべきは「ロータス・イーター」の恐ろしさ。早期退職からの隠居生活に対する痛烈な皮肉が込められており、人間は勤勉であるべき、社会と関わり向上すべきというモームの意外と真面目な人生観が垣間見えた。「冬の船旅」はコミカルなやり取りもありつつ、意外な結末が待っていた。古本屋で購入したのだが「大佐の奥方」にだけやたらと赤線が引いてあり、少し怖かった。
読了日:06月15日 著者:サマセット・モーム
エル・アレフ (平凡社ライブラリー)エル・アレフ (平凡社ライブラリー)感想
史実を基にしたものや、南米の民族的な短編の数々が収められているが、物語はしばしば現実離れした方向に展開していく。共通しているのは「こんな夢を見たらイヤだな」という感触。表題作の「エル・アレフ」のラストが圧巻だった。世界史が好きな人はハマるかも。
読了日:06月12日 著者:ホルヘ・ルイス ボルヘス
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)感想
個人的には「虐殺器官」を遥かに凌ぐ傑作だと思う。前作で感じた嫌な感じは、著者が描く世界があまりにも現実の延長線上に当てはまるように思えたことによる恐怖感だったのかもしれない。究極に最適化された世界に向かって一直線に突き進んでいく「空気」に対する恐ろしさ。リアル過ぎる未来が来る日も遠くはないのかもしれない、と感じた。
読了日:06月09日 著者:伊藤 計劃
言葉とは何か (ちくま学芸文庫)言葉とは何か (ちくま学芸文庫)感想
ソシュール研究の第一人者による言語学入門書。解説は丁寧だが、メモ取りながら読まないと途端に訳分からなくなる。詩の言葉が言語学的にどういった位置づけなのか解説されており、個人的にはそれが最大の収穫だった。今後「ソシュールの思想」または「ソシュールを読む」へステップアップするかどうかは検討中。
読了日:06月01日 著者:丸山 圭三郎
勉強の哲学 来たるべきバカのために勉強の哲学 来たるべきバカのために感想
「何を」「どのように」勉強するか、というハウツー本は巷に溢れているが、勉強するという事はそもそも自分がどうなる事なのか、という点について独自の用語で丁寧に示してくれる画期的な一冊。重要箇所を太字、改行多めで読みやすく工夫されてるけど内容はかなり濃厚。堅く捉えがちな「勉強」を、カジュアルで楽しいものと気付くきっかけを与えてくれる、不思議な魅力を持った本だと思う。
読了日:05月29日 著者:千葉 雅也
田舎教師田舎教師感想
タイトルからのんびりした田舎の風景を想像していたが、実際は若者の苦悩がこれでもかとばかりにブチ撒けられた物語だった。ストーリー的にはしんどいが、繊細な描写が印象に残る秀作。
読了日:05月28日 著者:田山 花袋
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)感想
話の内容が面白かったことは確かなんだけど、作者にとっては映画やゲームで表現されるビジュアルイメージが最優先で、あくまで文章はそれを再現する手段にすぎないような気がした。「映画が神」的な感じ。隙が無さすぎるところも欠点と言えば欠点かもしれない。
読了日:05月23日 著者:伊藤 計劃
後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)感想
本作も理系丸出しな円城ワールド全開だが、短篇の数々からは科学に対する皮肉のようなモノを感じた。1回きりではなく何回か読ませるために、敢えて一般的な物語を避けているのでは?とさえ思った。かといって実験的過ぎる訳ではなく、時おりハッとするような美しい表現が見つかる事がある。今まで読書で体験したことのない世界を見せてくれる稀有な作家だと思う。
読了日:05月17日 著者:円城塔
セバスチャン・ナイトの真実の生涯 (講談社文芸文庫)セバスチャン・ナイトの真実の生涯 (講談社文芸文庫)感想
英語で書いた最初の作品で、人を食ったようなユーモアは控え目かと思いきや、実は随所にアナグラムなどが仕掛けられている。謎解き仕立てのストーリーなので読みやすかったが、理解できてるかと言えば自身無し。ナボコフの自伝的要素も多分に含まれてるのではないか。訳文のトーンが個人的にすごく好み。
読了日:05月13日 著者:ウラジミール・ナボコフ
蒲団蒲団感想
禁断の愛を描いた有名な作品だが、登場人物の行動が想定内の範囲に収まっている気がして、いまひとつ引っ掛かりに欠けるというか、あっさりしてる感が否めなかった。発表当時は問題作として話題になったと思うが、現代においては若干色褪せてしまう。そこが良いのかもしれないけど。
読了日:05月13日 著者:田山 花袋
むずかしい愛 (岩波文庫)むずかしい愛 (岩波文庫)感想
「見えない都市」に挫折して読み始めたが、何でもない日常を、皮肉やユーモアに頼ることなくここまで緻密な物語にできる人はなかなかいない。作品ごとに作風がバラバラという噂なので、他の作品も読んでみたくなった。
読了日:05月09日 著者:カルヴィーノ
競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)感想
怒涛のアレゴリーと不謹慎なユーモアの連発で煙に巻かれ、加えて「郵便」という意外な着目点を巡って劇中劇やら地下組織やらが絡んできて、呆気にとられているうちに終わってしまい、理解度には甚だ自信がないものの、少しでもアンダーグラウンドな面白さを味わいたい、と思わせる作品であったことは間違いなく、ただ自分のアメリカおよび世界の歴史についての勉強不足を悔しく感じた。訳者による「解注」はかなりマニアックなので個人的には読まなくてもいいと思う。
読了日:05月03日 著者:トマス・ピンチョン
青年 (岩波文庫)青年 (岩波文庫)感想
上野近辺を中心とした明治時代の青年の生活感が目に浮かぶようだった。哲学的な思索に耽るインテリな側面と、年齢相応の肉欲に悩まされる一面とのコントラストの描き方があっさりしていて、漱石ほどネチネチしてないところが鴎外らしさなのかな、と思った。
読了日:04月30日 著者:森 鴎外
ヴァージニア・ウルフ短篇集 (ちくま文庫)ヴァージニア・ウルフ短篇集 (ちくま文庫)感想
一般的な小説とは大きくかけ離れたブッ飛びっぷりが短篇ではより顕著に現れている気がした。「ラピンとラパノヴァ」「キュー植物園」「徴」は何とか情景をイメージできたが、次から次へと繰り出されるウルフ特有の感覚世界に追い付けなくなる事も多々あり。
読了日:04月25日 著者:ヴァージニア ウルフ
エレンディラ (ちくま文庫)エレンディラ (ちくま文庫)感想
日本人が扱うとジメジメしがちな「死」が、この人の手にかかると、カラッと乾いたものとして描かれる。表題作ではロクでもないバアさんのやりたい放題っぷりが残酷を通り越してだんだん滑稽に見えてきたり、徐々に感覚がおかしくなってくる短編集。
読了日:04月20日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
影との戦い―ゲド戦記 (同時代ライブラリー)影との戦い―ゲド戦記 (同時代ライブラリー)感想
子供の頃本棚にあったのに結局読まずじまいだった曰く付きの1冊だが、もっと早いうちに読んでおけば良かった。もし中高生時代に読んでいたら、物の見方や考え方が変わっていたかもしれない。物語が神話性を帯びているところが、この人の作品の特徴だと思う。
読了日:04月19日 著者:アーシュラ・K. ル・グウィン
ロリータ (新潮文庫)ロリータ (新潮文庫)感想
もっとドロドロした物語かと思っていたが、予想に反してシリアスさよりも「楽しさ」が感じられた。「ふざけすぎ」と言い換えても良い。ロードムービー的な要素もあり、先入観で食わず嫌いすると勿体ないと思う。なかなかの名作。ただ翻訳的に残念だったのが「キモい」などの若者言葉が登場人物のセリフに出てくるところ。その辺は読者の脳内で変換すればよいワードであって、1950年代の少女の言葉としてのリアリティは無い。
読了日:04月14日 著者:ウラジーミル ナボコフ
スロー・ラーナー (ちくま文庫)スロー・ラーナー (ちくま文庫)感想
訳者の評価はイマイチだが「秘密のインテグレーション」という短篇がツボだった。悪ガキ冒険モノかと思いきや、ゾッとするような現代アメリカ感を時々匂わせる。ダルさの中に死が顔を覗かせる「小雨」もなかなか良かった。
読了日:03月31日 著者:トマス ピンチョン
読書術 (岩波現代文庫)読書術 (岩波現代文庫)感想
著者が古きよき教養人の権化みたいな経歴なので博覧強記ぶりが鼻についたり、主張がいささか斬新さに欠ける点は否めないが、言ってることは全体的にマトモだと思う。読書において目からウロコ的な発見・視点を求める場合は、あまりオススメできない一冊。
読了日:03月26日 著者:加藤 周一
風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-2) (ハヤカワ文庫 SF 399)風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-2) (ハヤカワ文庫 SF 399)感想
SFで一括りにはできない様々な趣きの作品の中で特に良かったのは「九つのいのち」「帝国よりも大きくゆるやかに」「視野」の三篇。異世界のおとぎ話とはどうしても思えない、本能的な恐怖に襲われる作品。いくら科学が進歩しても人間は脆い存在と感じた。
読了日:03月20日 著者:アーシュラ・K・ル・グィン
知的生産の技術 (岩波新書)知的生産の技術 (岩波新書)感想
約50年前に書かれた本だが、現代にも十分通じる内容だと思う。特に日本語をローマ字やカタカナ、ひらがなのみで書き表す意義についてのくだりが興味深かった。現在の日本語が完成形ではなく、まだまだ発展の余地が残っている気がした。
読了日:03月18日 著者:梅棹 忠夫
ねじの回転 (新潮文庫)ねじの回転 (新潮文庫)感想
帯や裏表紙のあらすじにホラー幽霊云々と書いてあったが、本当に恐いのは幽霊ではない気がした。ストーリーを楽しむというよりは読者それぞれがどんな解釈で読むか、という部分がポイント。文章自体は難解ではないが、異常に細かい心理描写はかなり独特。
読了日:03月10日 著者:ヘンリー ジェイムズ
発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由感想
どういう立場でこの本を読むかにもよるけど、著者の母親が結構な分量で執筆しており、そちらの内容の方が個人的に響いた。巻末には主治医の専門的な見解も述べられており、ポップなタレント本とは一線を画す一冊だと思う。
読了日:03月07日 著者:栗原 類
アイヌ学入門 (講談社現代新書)アイヌ学入門 (講談社現代新書)感想
考古学の見地から、プリミティブなアイヌ民族のイメージをガラッと変えてくれる一冊。本州との交易・文化受容や金の採掘などアイヌのクレバーな一面を発見できる。特に呪術の章が史料をもとに詳細に解説されており、興味深かった。
読了日:03月07日 著者:瀬川 拓郎
異形の王権 (平凡社ライブラリー)異形の王権 (平凡社ライブラリー)感想
「異形」と呼ばれる習俗の詳細な解説を踏まえて、南北朝というターニングポイントにおける劇的な価値観の転換や後醍醐天皇の特異性について論じられており、なかなかエキサイティングな一冊。もし高校の時に読んでたら、もっと日本史が好きになったかもしれない。個人的には、幕府でさえ取り締まり出来なかったという「飛礫」のくだりが衝撃的だった。
読了日:02月28日 著者:網野 善彦
Boy’s Surface (ハヤカワ文庫JA)Boy’s Surface (ハヤカワ文庫JA)感想
読み終わったとはいえ近年稀に見るレベルの理解不能感、果たして読んだと言って良いのか自信がない。そんな短編の中で面白みを感じたのが「Your Heads Only」だった。音楽に例えると音数の多い電子音楽、ぼんやりと心地よさに包まれる感じ。とにかく只事ならぬ読書体験だったので、他の作品を読む必要がある。(既に2冊購入済み)
読了日:02月27日 著者:円城 塔
ペドロ・パラモ (岩波文庫)ペドロ・パラモ (岩波文庫)感想
名著の誉れ高い作品だが中盤以降は見事に迷子になり、筋を追うのに一苦労した。細分化された各断片の締め方が鮮やかな印象。やたらと死人が出てくるが、恐怖感よりは諦めのような感情が伝わってきた。一回読んだだけで旨みを味わい尽くすのは難しそうなので、再読する必要あり。
読了日:02月23日 著者:フアン・ルルフォ
塩の道 (講談社学術文庫)塩の道 (講談社学術文庫)感想
民俗学の親分が平易な口調で自身の研究してきた内容を語りかけてくれる。自らの足で行ってきた数々のフィールドワークや文献の研究は、それぞれの文化にはそれなりの存在理由があること(人間は置かれた環境で何とかして生存しなくてはいけない)を証明している。何故か、どこの古本屋にもだいたい一冊は置いてある。
読了日:02月20日 著者:宮本 常一
予告された殺人の記録 (新潮文庫)予告された殺人の記録 (新潮文庫)感想
不穏なトーンでストーリーは進み、避けがたい破滅に向かっていく。それほど長い話ではないがインパクトは半端ない。死の持つ意味合いが限定される日本では決して描けないテーマだと思う。全編通して胸くそ悪いが、ついついページを捲ってしまうドス黒いナイフのような物語。
読了日:02月19日 著者:G. ガルシア=マルケス
闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))感想
両性具有やフェミニズムが取り沙汰されがちだが、物語舞台の壮大すぎるスケール感にとにかく圧倒された。ほぼ50年前に書かれた作品とはとても思えないほどのリアリティ。厳しい気候・環境が生命体の進化に与える影響が興味深かった。自分はたまたま冬に読んだが、どの季節に読むかが意外と重要な気がする。
読了日:02月14日 著者:アーシュラ・K・ル・グィン
第七官界彷徨・琉璃玉の耳輪 他四篇 (岩波文庫)第七官界彷徨・琉璃玉の耳輪 他四篇 (岩波文庫)感想
知名度が高いとは言い難い作家だが、表題の作品含め、かなりの傑作揃いだった。前者は複数の登場人物の視点で淡々と進んでいく物語が、独特の「臭い」を伴って進行していく。後者は一転して映画脚本なのでドラマチックな物語だが、二つの物語に共通して印象に残ったのは、女性だから見える「哀しみ」の感覚のような気がした。
読了日:02月07日 著者:尾崎 翠
オーランドー (ちくま文庫)オーランドー (ちくま文庫)感想
両性具有に気をとられるあまり、後半の分裂的な展開には面喰らった。解説を読んだところ、根本的に読み方を見誤っていた事が判明。とにかくふつうの小説ではない。楽しみ方が分かれば、これはこれでありだと思う。訳文がとてもリズミカルな印象
読了日:01月31日 著者:ヴァージニア ウルフ
からだ・こころ・生命 (講談社学術文庫)からだ・こころ・生命 (講談社学術文庫)感想
精神科医による講演をまとめたものだが、前半は医学よりも哲学寄り、というかむしろほぼ哲学な内容。後半は集団と個の関係を医学的な知見も交えて展開している。「境界」がポイントらしい、とぼんやり分かった程度の理解。あと、ジャケ買いしたわけではないが、表紙の絵が素敵。そしてカバーの鶴マークを10枚集めるともらえる講談社学術文庫特製ブックカバーをゲットしようと密かに企んでいる。
読了日:01月29日 著者:木村 敏
自負と偏見 (新潮文庫)自負と偏見 (新潮文庫)感想
登場人物の把握に骨が折れたり、とにかく長い分量に挫けそうになったが、後半の急展開のおかげで最後は加速して読み終える事ができた。18~19世紀のイギリスが舞台だが、主人公のエリザベスだけ、現代から過去にタイムスリップしたかのような旧来の考え方に屈しないストロングスタイルな女性だった。モームでおなじみの中野好夫氏の翻訳は、固苦しいところと砕けたところのメリハリが効いていたと思う。通読した上で、もう一回読み直すと更に楽しめる作品ではないかと思う。脇役のコリンズがどうしようもないけど憎めないキャラで面白かった。
読了日:01月25日 著者:J. オースティン
フリーダ・カーロ―引き裂かれた自画像 (中公文庫)フリーダ・カーロ―引き裂かれた自画像 (中公文庫)感想
去年ディエゴリベラ展でフリーダカーロの作品が一点だけ展示されていて、サイズは小さいけど半端ないパワーのある絵だと感じた。この本では彼女の一生を、本人と関わりのあった人々から丁寧に話を聞くことで、客観的な視点で書かれている。そんな彼女の作品とシュールレアリズムとの関連性はやはり薄いと思う。フリーダの作品は野球で言うと内角高めのストレートで、とにかくいつも直球勝負という印象。シュールレアリズムのような変化球ではない。表現の方法として、松井冬子さんとかも同じ系統なのかな?と思ったりした。
読了日:01月22日 著者:堀尾 真紀子
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)感想
何と言っても表題作に一番衝撃的を受けた。SFを読んで、これほどの恐怖と悲しみを感じるとは思わなかった。全貌が明らかになるにつれてダイレクトに感情を揺さぶられた。どの物語も、現実と全くかけ離れた世界の話ではなく実際に存在しうる世界が圧倒的なリアリティで描かれていて、容赦なくその世界に引きずり込まれた。じっくり読んでも100%理解するのは自分には難しかったが、ここ最近読んだ本の中では一、二を争うくらい面白かった。
読了日:01月11日 著者:テッド・チャン
デイジー・ミラー (新潮文庫)デイジー・ミラー (新潮文庫)感想
作品中で登場人物の発言のあとに「~と叫んだ」と表記されている箇所が多々見られたが、現代でいうところの「叫ぶ」と一致していない気がした。本当にそれぞれの場面で登場人物が叫んでいたとすると、かなり愉快かつ不気味な物語になってしまう。どんな英単語を訳した結果「叫んだ」という表現になったのか、非常に気になる。
読了日:01月04日 著者:ヘンリー・ジェイムズ
20世紀イギリス短篇選 (下) (岩波文庫)20世紀イギリス短篇選 (下) (岩波文庫)感想
ノーラ・ロフツやオリヴィア・マニング、ウィリアム・トレヴァーの作品が良かった。上巻よりも現代に近い年代の作家が多いぶん、下巻の方がリアリティがあった気がする。現代社会に対する風刺が効いている作品が多い印象。ウィリアム・トレヴァーは他の作品も読んでみたくなった。
読了日:01月02日 著者:小野寺 健

読書メーター

2018年12月の読書メーター

12月の読書メーター
読んだ本の数:5
読んだページ数:1310
ナイス数:45

へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)感想
日経新聞の連載をまとめたもので、語り口調のため読みやすい。波瀾万丈すぎて唖然とするエピソードの数々は、さぞかし日経の紙面で浮いていたと思われる。読み終わった後、国立近代美術館で開催されていた熊谷守一展に行けなかったことを激しく後悔した一冊。
読了日:12月22日 著者:熊谷 守一
暇と退屈の倫理学暇と退屈の倫理学感想
暇と退屈というテーマを突き詰めていった結果、到達した着地点はかなり想定外なものだったが、読み終えた直後は時空を超えた旅行を経てきたような感覚になった。難解な理論を具体例と共に丹念に検証しているので、ギブアップせずに無事ゴールできた。
読了日:12月21日 著者:國分 功一郎
別のしかたで:ツイッター哲学別のしかたで:ツイッター哲学感想
140字で世界を切り取る手腕は鮮やかすぎて、芸術の域に達していると言っても過言ではないと思う。言葉に対する神経の使い方・執着が尋常ではない印象。理解が難しいものも多いが、何気ない思考のダダ漏れ感がとても楽しめるのでオススメ。
読了日:12月17日 著者:千葉 雅也
リタ・ヘイワースの背信リタ・ヘイワースの背信感想
それぞれの章が丸々登場人物の独白(改行なし)で占められており、とにかく読みにくい上に人物相関も分かりづらい。終盤で漸く小説らしい箇所が現れたものの結局謎に包まれたまま終了。プイグのデビュー作を読んでみたいというマニア以外にはオススメできない一冊。
読了日:12月11日 著者:マヌエル プイグ
継母礼讃 (中公文庫)継母礼讃 (中公文庫)感想
単なる官能小説かと思いきや、意外な展開が待っていた。描写する場面とそうでない場面の線引きが鮮やかで、敢えてすべてを描かず、読者に想像させる手腕が見事だと思った。サラッと書かれたようで、実は侮れない作品。
読了日:12月01日 著者:マリオ・バルガス=リョサ

読書メーター

2018年11月の読書メーター

11月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:2231
ナイス数:63

ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)感想
バルガスリョサ、オクタビオパス、フエンテスなどの作品を含むコンピレーションアルバム的な作品集。中でもバルガスリョサの「子犬たち」の笑うに笑えなさが一番面白かったが、「ち○こ」というワードがあれほど頻出する短篇小説は初めて読んだ。
読了日:11月29日 著者:ホセ・エミリオ パチェーコ,カルロス フエンテス,オクタビオ パス,ミゲル・アンヘル アストゥリアス,マリオ バルガス=リョサ
青白い炎 (岩波文庫)青白い炎 (岩波文庫)感想
約150頁の詩(左頁に英文、右頁に対訳)と約370頁の註釈というパンチの効いた目次から始まる、厚さにして二センチあまりの文庫本。英語の詩を読むのは初めてだったが訳分からないなりに語感の美しさが伝わった気がする。富士川義之氏の対訳は、あまり意訳せずに原文の雰囲気を尊重していた印象。破天荒な構成と分厚さに怖じ気づくことなく、覚悟を決めて思いっきり飛び込んでしまえば意外と楽しめると思う。
読了日:11月24日 著者:ナボコフ
松浦弥太郎の「ハロー、ボンジュール、ニーハオ」松浦弥太郎の「ハロー、ボンジュール、ニーハオ」感想
暮らしの手帖編集長時代の著書。アメリカ、フランス、中国の国民性や考え方の紹介が中心で、終始ポジティブかつアクティブなパワーに溢れているので、そういうタイプではない人にはしんどいと思う。米仏中での経験を現在の仕事にどう反映させているか、についてもっとページを割いて欲しかったが、それは他の著書をご覧ください、ということだろうか。
読了日:11月15日 著者:松浦弥太郎
緑の家(上) (岩波文庫)緑の家(上) (岩波文庫)感想
とりあえず上巻を読み終えたが、物語がこの先どう展開していくのか、未だに予測できない。このままボンヤリ終わってしまったらどうしよう、という一抹の不安を抱きつつ下巻に進む。
読了日:11月10日 著者:M.バルガス=リョサ
秘密の武器 (岩波文庫)秘密の武器 (岩波文庫)感想
コルタサル「秘密の武器(岩波文庫)」読了。短篇5篇中2篇は他の短篇集で既読。人間の情念と日常を逸脱した超現実感のミックス具合がコルタサルの魅力だと思うが、本作収録の短篇では人間の情念、とりわけ不在者に対する情念の描写が印象的。「女中勤め」はあまりコルタサルっぽくない短篇で意外だった。
読了日:11月06日 著者:コルタサル
蜘蛛女のキス (集英社文庫)蜘蛛女のキス (集英社文庫)感想
読んでいて人と人が愛を育むことの尊さがグサグサ刺さったが、若干特殊な環境下であることは否めない。プイグ作品はブエノスアイレス事件、赤い唇を読んだが、本作が一番良かった。プイグ特有の文章構成が物語に見事にハマっていた気がする。どんな人物をモリーナに当て嵌めて読み進めるかが重要なポイントだと思う。
読了日:11月05日 著者:マヌエル・プイグ

読書メーター

2018年10月の読書メーター

10月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2318
ナイス数:42

赤い唇 (集英社文庫)赤い唇 (集英社文庫)感想
最初から最後までとにかくドロドロしている。複数の男女の思惑が交錯する「アルゼンチン版昼ドラ」的な内容だが、身分、都会と田舎、不治の病、信仰などの要素に加えて、プイグが得意とする変則的な文章構成が物語に奥行を持たせている。マルケスの「予告された殺人の記録」を読んだときの救いの無さを思い出した。
読了日:10月30日 著者:プイグ
ブエノスアイレス事件 (白水Uブックス (63))ブエノスアイレス事件 (白水Uブックス (63))感想
小説っぽくない独特な構成とドロドロした性表現が特徴的だが、その先にあるのは愛や希望ではなく、病的で歪んだ欲望がアルゼンチンを舞台としたキャンバスにこれでもかとばかりに叩きつけられている印象。冗長な部分も殆どなく、なかなか面白かったが、ベストセラーになるほど万人受けするとはとても思えない。
読了日:10月25日 著者:マヌエル・プイグ
会話もメールも 英語は3語で伝わります会話もメールも 英語は3語で伝わります感想
「3語」というのは実際に単語が三つしかない訳ではなく、文の中の要素が三つという意味なので若干誇大広告気味な感じは否めないが、全体を通して趣旨はまともだし、英語をコミュニケーションの道具として使いこなしたいのであれば、TOEICの勉強をするより、この本の内容を徹底的にマスターした方が良いのではないか。斬新な切り口の良書だと思う。
読了日:10月23日 著者:中山 裕木子
フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)感想
最近個人的にラテンアメリカ文学がアツいので初フエンテスに挑んでみたところ、ボルヘス直系の不気味さ、生と死が地続きなフアンルルフォ、ガルシア=マルケス感があった。ただコルタサルっぽい主観性はあまり感じられず、第三者的な客観的視点に徹しているように思えた。
読了日:10月18日 著者:カルロス フエンテス
奪われた家/天国の扉 (光文社古典新訳文庫)奪われた家/天国の扉 (光文社古典新訳文庫)感想
『訳分からないけどクセになる』コルタサルの魅力が詰まっているが「キルケ」はトラウマになりかねないインパクト。マンクスピアとは何なのか気になってしまい、ついついググってしまった。コルタサルの未訳の作品はまだまだあると思うので、寺尾隆吉さんにはこれからも是非頑張ってもらいたい。
読了日:10月14日 著者:フリオ コルタサル
八面体 (フィクションのエル・ドラード)八面体 (フィクションのエル・ドラード)感想
短編は長編と違って、その作品を読んだことでしか感じられない或る特別な感情を味わうことのできる表現形式だと思うが、そういった意味においてコルタサルは短編職人だな、と感じた。読者を作品ごとに様々な感情の迷路に容赦なく突き落としてくれる迷作。
読了日:10月12日 著者:フリオ コルタサル
十二の遍歴の物語 (新潮・現代世界の文学)十二の遍歴の物語 (新潮・現代世界の文学)感想
ヨーロッパを舞台にした短篇が多いせいか、幻想的リアリズム感は控えめ(ゼロではない)で、日常の延長を題材にしたライトな作品が多い印象。文体はいつものマルケス節だが、他の作品に比べて気軽に楽しめるものが多かったように思う。
読了日:10月09日 著者:G.ガルシア マルケス
悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)感想
世にも奇妙な物語テイストの作品が多いが、その中でも比較的サイズ長めの「追い求める男」がとにかくヤバかった。月と六ペンスを彷彿とさせる、ジャズミュージシャンの生きざまを描く傑作をラテンアメリカの作家が書いていたとは全く知らなかった。
読了日:10月05日 著者:コルタサル
遊戯の終わり (岩波文庫)遊戯の終わり (岩波文庫)感想
「結局謎が明かされないミステリ」的な短篇の数々は割とサクッと読めるが、再読すると味わいが深まるスルメ感あり。全てを語らず、余白部分を読者の想像に委ねているような印象。「牡牛」や「昼食のあと」「遊戯の終わり」といった作品が好みだった。
読了日:10月02日 著者:コルタサル

読書メーター

2018年9月の読書メーター

9月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2468
ナイス数:40

誘拐の知らせ (ちくま文庫)誘拐の知らせ (ちくま文庫)感想
実際に起こった事件を元にしたノンフィクションの物語が、相変わらず淡々としたマルケス節で綴られている。安易な勧善懲悪のパターンに陥ることなく、さまざまな立場の人々の思惑が生々しいリアリティで描かれており、ジャンルは異なるものの「百年の孤独」に勝るとも劣らないクオリティだと思う。コロンビアという国に興味を持つきっかけとなったが、いかんせん登場人物が多すぎるので、序盤から人物メモを取っておくと読みやすくなる。
読了日:09月27日 著者:G・ガルシア=マルケス
屍者の帝国 (河出文庫)屍者の帝国 (河出文庫)感想
虐殺器官やハーモニーの世界観に「歴史物」という要素が加わりストーリーとしては楽しめるが、内容はやはり難解。伊藤氏お得意の「ポップなグロテスク」感は控え目だが、円城氏が得意とするシニカルなユーモアが全編に渡って効いている。意識についての大胆すぎる仮説がなかなか衝撃的だった。
読了日:09月22日 著者:伊藤 計劃,円城 塔
翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった (ポプラ文庫)翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった (ポプラ文庫)感想
自分がモームにハマるきっかけとなった「月と六ペンス」を翻訳されていて、どんな人なんだろうと思い読んでみた。翻訳する際の苦労話や、どんな作品に注目するか、などについて惜しげもなくベテランのノウハウを開示している。楽しみながら翻訳家の世界について知る事のできる作品。若干村上春樹を目の敵にしている感がある。
読了日:09月19日 著者:金原 瑞人
ぼくはスピーチをするために来たのではありませんぼくはスピーチをするために来たのではありません感想
マルケスが生前行った数々の講演が収録されており、題材は多岐に渡るので創作についての話はあまり多くないが、ジャーナリズムについて述べているものはとても興味深かった。これを言ったら身も蓋もないが、やはりマルケスは小説の方が面白いので、わざわざ買って読むほどではない気がする。
読了日:09月16日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)感想
今年読んだ中では現時点で最高の作品。会話文が少なく淡々とした文章で綴られる物語は、清濁併せ呑む壮大なスケールで進んでいくかと思いきや、時おり気の抜けたユーモアが顔を覗かせたり、妻から夫への愚痴が句点無しの2ページ強に渡る一文で表されたりする。とにかく登場人物の名前が厄介なことこの上ないので、終盤は半ばヤケクソ気味な状態で読み終えたが、小説に対する固定観念をものの見事に打ち砕いてくれる、稀に見る傑作だと思う。
読了日:09月15日 著者:ガブリエル ガルシア=マルケス
幸福な無名時代 (ちくま文庫)幸福な無名時代 (ちくま文庫)感想
短編集と勘違いして購入したところ、記者時代のルポルタージュを集めたものと判明。でも読んでみると語り口がマルケスの小説と殆ど変わりなかった。ノンフィクションなので比較的クセがなく読みやすかったので、マルケス一冊目に適していると思う。
読了日:09月07日 著者:G. ガルシア=マルケス
Frida KahloFrida Kahlo感想
テキスト量は少ないが伝記と年代ごとの作品が紐付けられており、フリーダの代表作が一通り追えるようになっている。英語もそれほど難しくないので、フリーダファンならコレクターアイテム的に持っておいて損は無いと思う。大きい作品が少なく、小さな絵が多かったフリーダらしい、可愛らしい本のサイズも良い。
読了日:09月05日 著者:Christopher Wynne
伝奇集 (岩波文庫)伝奇集 (岩波文庫)感想
夢のように現実離れした感触の作品は、どれも最低二回は通読しないと頭に入ってこない。物語にありがちな感傷性を極力排した「何かを超越した」世界だからだろうか。「円環」や「シンメトリー」といったボルヘスが大好きなモチーフが頻繁に用いられており、ラテンアメリカの土着性と、著者の博識っぷりとの唯一無二のハイブリッド感がボルヘスの魅力だと思う。
読了日:09月04日 著者:J.L. ボルヘス

読書メーター

2018年8月の読書メーター

8月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:2056
ナイス数:14

かみそりの刃〈下〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)かみそりの刃〈下〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)感想
ストーリーよりも個性豊かな登場人物の描写に重きが置かれている印象。戦争、宗教、インド神秘主義などの要素がこれでもかとばかりに詰め込まれており、スケールの割に全体のまとまりに欠ける感が否めなかった。ただ主人公や周りの人物の描写についてはとにかく鬼気迫るほどのリアリティで、さすがモームと言わざるを得ない。
読了日:08月31日 著者:サマセット モーム
かみそりの刃〈上〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)かみそりの刃〈上〉 (ちくま文庫―モーム・コレクション)感想
女性の人物描写に定評のあるモームだが、本作では男性主人公の描き方が光っており、過剰になってしまいがちな人物造形が絶妙なバランスを保っている印象。小説らしい小説は久しぶりなので、とても楽しんで読んでいる。下巻は果たしてどうなるのか。
読了日:08月25日 著者:サマセット モーム
鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)感想
想定外の落語調訳文に初めは面喰らったが、ゴーゴリに対する深い理解や愛が無いとここまで大胆な翻訳は出来ないと思うし、どの作品も単純に楽しく読めたので結果オーライだと思う。落語と相通じるものがあるということは、ロシアとか日本とか国境を越えた面白さが伝わった事になるし、外国文学に対するハードルも下がると思うので、今後もこういった試みは個人的にはウェルカムである。
読了日:08月13日 著者:ゴーゴリ
魯迅文集〈1〉 (ちくま文庫)魯迅文集〈1〉 (ちくま文庫)感想
「吶喊」と「彷徨」魯迅の小説集×2が1冊にまとめられている。吶喊に比べて彷徨の作品の方がユーモアを含んだ作品(ex高先生)もあれば、とことんヘビーな作品(傷逝)もあるので間口が広く、多彩なった。都市生活者を題材にしたものが若干増えたかも。ただどんな作品にせよ魯迅は徹底して突き放したスタンスで描くので、読者の感情が多少揺れたとしても「そんなことより、お前今の社会で本当にいいのか」と怒られそうな気がする。
読了日:08月07日 著者:魯迅
阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)阿Q正伝・藤野先生 (講談社文芸文庫)感想
「吶喊」「彷徨」「朝花夕拾」からチョイスされたベストアルバム的な1冊。「吶喊」は訳者は異なるが既に岩波文庫版で読んでいたので「彷徨」からの4篇と藤野先生を読んだ。魯迅の短篇はだいたい読んでてしんどくなるのだが、中でも「孤独者」のボディブローのような感触が一番キツかった。読んでいて感じるしんどさ、キツさこそが魯迅を理解する手がかりになると思うが、今のところはただしんどいだけである。「藤野先生」は先生のどの性質が魯迅の心に引っ掛かったのかよく分からず。
読了日:08月06日 著者:魯迅
魯迅 (講談社文芸文庫)魯迅 (講談社文芸文庫)感想
「吶喊」「野草」を経て読んでみた結果、主題の魯迅よりも竹内氏の無骨な人間臭さに魅了されてしまった。文学者としての魯迅のスタンスは一筋縄ではいかない捻くれ具合だが、竹内氏は「日本とアジア」同様、寄り道しまくった挙げ句当たって砕ける感じの展開で全く飽きない。とにかく魯迅の書いてる事を真に受けてはいけない、という事だけは分かった。
読了日:08月03日 著者:竹内 好

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「エル・アレフ」ボルヘス

◼不死の人
オデュッセイア』『イーリアスホメーロス
古代ギリシア


◼死んだ男
ガウチ


神学者
ヨハネス↔アウレリアヌス
ヒストリオン派
異端
円環派論駁


◼戦士と拉致された女の物語
自分が攻撃していた町を守ろうとして亡くなった男
↔イギリスからブエノスアイレスにやってきて酋長の妻になった女


◼タデオ・イシドロ・クルスの伝記
かつて殺人を犯して警官と戦ったクルスが、今度は自分が警官となって無法者を追う
→自分は荷担できないと悟り、部下を相手に戦い始める


◼エンマ・ツンツ
父の仇を討つ


◼アステリオーンの家
ミノタウロス


◼もうひとつの死
ドンペドロダミアンの2つの死に方


◼ドイツ鎮魂歌
ナチズム、収容所副所長の独白
暴力vsキリスト教


アヴェロエスの探求
スペイン
イスラム
悲劇と喜劇
アヴェロエスの消滅(アヴェロエス=自分の象徴)


◼ザーヒル
インド
テオデリーナ・ビリャールの死
貨幣にとりつかれた


◼紙の書き残された言葉
神官ツイナカーン
牢に幽閉
拷問
ジャガーの模様=神の言葉
砂に溺れる夢
神、宇宙と合一


◼アベンハカン・エル・ボハリー、自らの迷宮に死す
ダンレイヴン(叙事詩)
アンウィン(数学者)
いとこのサイードに殺される
フェイスレス(顔を潰す)
蜘蛛の巣
最終的にアベンハカンになる


◼二人の王と二つの迷宮
★だいたい夢に出てきたらイヤな感じの話が多い


◼待つ
ヴィラーリ(敵の名前)
居場所を突き止められる


◼戸口の男
インド
グレンケアン(イスラム教徒の騒乱を鎮静化させるため送り込まれたタフな男)
失踪→捜索
年取ったぼろきれのような男の話
裁判官を裁く裁判官→狂人
発見


◼エル・アレフ
ベアトリス・ビテルボの死
カルロス・アルヘンティーノ・ダネリ
→詩集の序文をアルバロ・メリアン・ラフィヌールに書いて欲しいと頼まれる
※エル・アレフ=全ての点を含んでいる空間上の一点


★古代の史実に基づいたであろう話もあれば、南米ならではの民族的昔ばなしもあり